虐める目的は『相手が悪いから』ではなく、『自分が優位に立ちたいから』だろうね

前期教育期間中に数人辞めていった。

別に誰も驚きはしなかった。
『ふ~ん。あの人辞めたんだ』くらい。逆に誰一人辞めないほうが奇跡だと思う。

 

区隊長が残った隊員を2~5名ずつのグループに分け、それぞれのグループを後期の教育部隊に配属した。

 

関東のとある駐屯地で私を含む女5名と、違う駐屯地からの男5名で後期教育が始まったんだが……まぁ男女が混じると面倒臭くて。私の人生、一度目のいじめは小学校、二度目のいじめは、この後期教育だった。

 

 

後期教育初日のオリエンテーション、その5人の男性隊員の中にスラッとして切れ長の目の男性(以下「Y」)が居た。
初めて会うのに何故か懐かしい感じがして…。
でも全く私のタイプではなく、きっと彼も私の事は異性としては意識してなかっただろう。

 

 

後期教育の班長は男女各1名ずつで、女班長はいい具合に力の抜けた人で大好きだったが、男班長は苦手だった。

 

後期教育が始まってすぐ、男班長にちょっかいを出されたり、チヤホヤされていることに鈍感な私でも薄々気づいていたが、気付かないふりをしていた。
8月のお盆休みの前、何かあった際すぐ連絡がとれるようにと男班長が教壇のホワイトボードに自分の電話番号メアドを書き、「とりあえず件名に名前を入れて、空メールでもしといて」的なことを全員に言った。


ここから一時、班長のキモいメール悩まされた。

 

自分の部屋に戻り、実家に帰る準備をしつつ班長に空メール…も失礼かと思い「〇〇(←私の苗字)です。登録お願いします」とだけ送ったら、そっこー返信が返ってきた。しかもなぜか赤ちゃん言葉で…。無視もできず、何通かやりとりをして、じゃ実家帰るんで、また。的な内容を送って一方的にメールを終了した。

 

 

お盆が終わっても男班長のチヤホヤは相変わらずで、後になって知ったんだが、この時すでに同期のN美はこの班長の事を好きだったらしい。
N美はかなり気分屋でテンションの上下が激しい子だった為、前期教育の頃から私は苦手だった。
前期教育から部屋が同じだったA香と私はそれなりに仲が良かった為、私はいつも何かあればA香に相談していた。A香は私の4つ上でお姉ちゃん的存在だった。

 


だいぶ後になって知ったんだが、A香はYの事が好きだったらしい。YもA香に気があったのか知らないが、この頃、休日、二人でたまに遊びに行っているのはなんとなく知っていた。
ただ二人とも歳が近いから喋りやすく一緒に遊んでいたのだと思っていた。
事実、A香に「Yの事好きなの?」とストレートに聞いたことがあるが「いや、Yの事は好きではない。喋りやすい友達」と言っていた。


とある週末、私は一人でフラフラしたく、駐屯地を出て駅で電車を待っていたらホームにYが居て、Yも私に気付き挨拶だけ交わしたが、同じ電車に乗るのがなんか嫌で、私は敢えて電車を1本ずらして乗った。

 

で、電車を降りて駅を出たら、駅前の喫煙場でYがタバコを吸ってた。ワザと1本電車ずらしたのに…。
しかもまさか同じ駅で降りると思ってなかったので「あ~…おひさ」とかテキトーに挨拶して逃げた。

 

どっかの店に入りフラフラ買い物をしていたら、悲しいことにまたYがいた…。
「またあったね~…」とか苦笑しながら店から出て、他の店に入ったり路地裏をフラフラ散歩してたら1時間もしないうちにまたYとばったり会った…。
さすがにこの時は『もしかして後をつけられてる…?』と思ったが、Yも同じく『この女、俺の後ついてきてる?』と思ったらしい。

 

でもコレ、ホントにただの偶然だったらしい。


さすがに何度も会って気まずくなり、Yの方から「…暇?カラオケでも行く?」って誘ってくれて一緒に遊んだ。


Yの事を『クールでとっつきにくい人』と思っていたが、意外と喋りやすく二人で居るのは苦ではなかった。


Yはそれからよく私の事を誘うようになっていたが、すでにA香に手を出した後だったらしく…ここからいろいろ縺れはじめた。

 


「今どこいるの?昼ご飯一緒食べない?」と土曜の昼間にいきなりYから連絡がきて、何も考えず普通に会いにいったら昼ご飯後ホテルに連れ込まれヤられた…。
恋愛未経験だった私は断り方もよく分からず、簡単にYに処女をあげてしまった…。

 


私もバカだった。それを「いや、Yの事は好きではない」と言っていたA香に相談してしまった。


そこからA香に無視され始めA香は裏でN美にその事を愚痴りはじめたようで。

私は一気に敵を二人作ってしまったようだ。


なんで女というのは一緒に特定の人の悪口を言うことで結束を固めるのが好きなのだろうか?未だにその気持ち悪い性質は理解できない。


誰かの悪口を一生懸命言い合いながら共感するなんて惨めだ。


YはA香に問い詰められたらしいがYはA香の事が好きではなかったらしい…。
その後、Yは私に「付き合って」と言ってきた。


実はそのころ、私は裏でA香がN美に愚痴り始めている事も、A香がYを問い詰めているのもまだ知らなかったので「うん。いいよ」と簡単に言ってしまった。

 

周りの男隊員から「Yは女癖が悪い」と聞いていたが、私は「女癖が悪い」の意味がよく分かってなかったので「うん。いいよ」と返事してしまった。


女癖が悪かったのかもしれないが、彼なりに『処女』を犯してしまった事に責任を感じていたのかもしれない。

 


残念な事に話は上の人まで行き、Yは区隊長に屋上に呼び出され、女性隊員2人をもて遊んだとしてぶっ飛ばされたらしい。
だが「俺、〇〇(←私の苗字)とちゃんと付き合ってます」と言ったら区隊長は唖然としてたようだ。

 

 

 

私は私で男班長に「お前、Yと付き合ってんの?」と聞かれ…

 
「はい…まぁ…」と答えたら男班長は「ふ~ん。そっか」とそっけない反応で去って行った。


班長はそこから完全に恋愛対象をN美に切り替えたんだろう。
そっけない反応から1か月もしないうちに男班長の先輩が「今あいつら付き合ってるよ」と私に垂れ込んできた。

『あんな赤ちゃん言葉を使う男と付き合ってるのかN美は…?』と考えたら鳥肌が立って笑いがこみ上げた。

 


N美は男班長に私とYのある事ない事吹き込んだのかもしれない。
その頃くらいから男班長の私とYに対する態度が酷くなった。

何かが原因で全員腕立てさせられてる時、男班長がなぜがYをいきなり立たせ、鉄ではない何か長い棒でYの臀部をおもっきしフルスイングした…。
班長に口答えはできない…。私は腕立てしながら横目で見る事しかできなかった。
私も何かと理不尽に怒られたりでしんどかった。


A香とN美の悪口も、影口ではなく他の隊員や班長が居ないとき私に聞こえるように言い始めた。「いなくなればいいのに」だの「死ねばいいのに」だの…さすがにむかついた…。けど別にいーや、って私の中で流してるところもあった。
だってそんなことを言われても女5人同じ部屋なので、逃げ場がない。
言葉や態度で執拗に虐げられたが、自分の母の言動に比べたらたいしたことはなかったし、いい具合に力の抜けた女班長と、班長2人を取り締まっていた区隊長の下の男性と、男班長の先輩には可愛がってもらってた(と思う)から平気だった。


でも日に日にストレスが溜まり私の体重は減っていった。さすがにYも他の隊員も気づきYがN美に「〇〇(←私の苗字)がホントに自殺したらお前どうするんだ?」って恐ろしいこときいたようで…。


N美はムスッとした顔で無言だったらしい。言うだけ言って都合が悪くなると無口になる。ずるい。

私と同い年なのにN美は精神的に幼い部分があった。なにかあると「だって」や「でも」から言葉がはじまる。

で、すぐ泣く。

 

 

 

平日はそんな感じで面倒臭い生活だったけど、土日はそれなりにYと出かけたりして楽しかった。

買い物行ったり、ディズニー行ったり、普通にデートしてた。
Yのクールな性格も徐々に柔らかくなっていって嬉しかった。

 


前期教育に比べ訓練は多少楽だった。
だが山に訓練に行く前日に4か月ぶりに生理が来てしまい、久々の生理で痛みが半端なく、冷や汗が出て顔が青くなるほど体調がおかしくなったが、高校とは違い「生理なんで今日の体育は見学します」なんて言える環境ではない。
いつも通り山に訓練に行き、いつも通り顔にドーラン塗ったりして訓練に参加した。

土砂降りの中、フル装備で40キロ行軍も…無理やり歩いた…。


久々「あー…気絶したい。気絶来い」って願ったがやっぱり来なかった。

40キロちゃんと歩けたが下腹がえぐれたのではないか?ってくらい激痛で訓練終わって駐屯地に帰った週末、寝込んだ。

お腹ばかりに気を取られていて気づかなかったが、行軍で靴擦れが凄かったのか、お風呂の時に足の裏の皮膚が3分の1ベロっと剥けて、赤くなっていることに気づいた。
むしろ気付かない方がよかった、気付いたせいで痛い気がした。

 

 

 

まさか、こんな面倒臭い後期教育になるとは思っていなかったので疲れた。


『気に食わないから』『自分の思い通りにならないから』と相手を言葉や行動で虐げる人間は、人にそのような事でもしないと、どうせ自分で自身の価値がわからないし評価もしてあげられないんだろう。虐めないと自分が何者かが分からないのだろう…。
自分に自信がないけど自分を良く評価したいから、他人を無理やり自分の下にしようと頑張るんだろう…。


虐めることで変な自己満足を満たし、相手よりも優位に立ったつもりなのかもしれないけど、他人を自分の思い通りにしようとムキになった時点で負けだから。